2024年12月6日に開催された「JiF観光立国フォーラム2024inTOKYO」では、JFOODO執行役の北川浩伸氏が登壇し、日本産食品の輸出促進を軸とした「ループバウンド」戦略について語りました。そのプレゼンテーションを受けて、日本インバウンド連合会(JiF)理事長、本サイトの編集長である中村好明氏が解説。本記事では、日本の食文化とインバウンド観光がどのように融合し、新たな成長戦略を描くのか。その全貌に迫ります。ループバウンドとは何かJFOODOの北川浩伸氏が取り組んでいる食の分野を、ループバウンドの概念に適用すれば、次のような図式になるでしょう。まさに、ヒトのインバウンド(訪日観光での食体験)とモノのアウトバウンド(日本産食品の輸出)が相互に影響し合い、双方向の価値循環を生み出す包括的な食の産業モデルとしてのループバウンドです。JFOODOの取り組みは、日本独自の強みである食文化を軸に、観光業と農林水産業・食品加工業・飲食事業を結びつける新しいアプローチとして大注目すべきだと思います。訪日観光客が日本の食文化を体験し、その魅力を自国に持ち帰ることで、日本産食品の需要が現地で拡大するというプロセスが、このモデルの中核です。単なる日本国内での観光消費に留まらず、地域の特産品や郷土料理が海外市場で注目を集めることで、食の輸出等による地方経済の活性化にも繋がる仕組みが特徴です。日本食文化がもたらすブランド価値日本食が提供する「本物の体験」訪日観光客が日本で体験する「本場の日本食」は、海外で提供される日本食とは一線を画します。細やかな盛り付け、新鮮な食材、そして丁寧な接客を通じて、食事そのものだけでなく、日本文化の一端に触れる体験を提供します。また、「いただきます」「ごちそうさま」といった食事に関連する言葉も、食を通じた日本の価値観として観光客に強い印象を与えます。このような体験は、日本食のブランド価値を高める要素となっています。訪日中に日本食の魅力を味わった観光客は、帰国後に「本物の日本の味」を求めるようになり、その結果として現地市場での日本産食品の需要が高まるのです。地方特産品への注目地方の郷土料理や特産品も、日本食文化のブランド価値を構築する重要な要素です。秋田の「きりたんぽ」や山形の「芋煮」、鹿児島の黒豚など、地方ごとの独自性が観光客にとって新鮮な魅力となります。これらの体験を通じて、訪日観光客が地方の食文化に触れ、その魅力を自国に広めることが、地方特産品の輸出促進に繋がっています。インバウンドとアウトバウンドの相乗効果消費者の「食の習熟度」を高めるプロセス訪日観光を通じて日本の食文化にじかに触れることは、消費者の「食の習熟度」を高めるプロセスとして重要な役割を果たします。海外では、日本食が「健康的でおしゃれ」というイメージで受け入れられていますが、訪日体験を通じて、その食文化の奥深さに触れることで、消費者の理解がさらに深まるようになるわけです。例えば、初めは現地で手軽に購入できる日本製インスタント食品やスナック菓子などを楽しんでいた消費者が、訪日体験を通じて、本格的な寿司や郷土料理を味わい、その良さを認識するようになります。このような「食の習熟度」の高まりが、海外現地での日本産食品や高級日本料理店の需要拡大にも繋がります。地方からグローバル市場への展開インバウンド観光は、地方特産品をグローバル市場へと繋げる機会を生み出します。例えば、日本酒や和菓子といった伝統的な製品=モノは、訪日中に観光客=ヒトが体験することで、その価値が再発見されます。この体験が口コミやSNSを通じて広まり、海外市場での認知度を高めるきっかけになるわけです。また、日本各地の地方の特産品が観光客を通じて世界に広まることで、輸出の新たなチャンスが生まれます。地域独自の価値を伝えるストーリー性が、ブランド価値をさらに高める重要な要素となっています。政府と企業の取り組みJFOODOの輸出促進戦略JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)は、日本産食品の輸出拡大を目指し、インバウンド観光との連携を強化しています。その一環として、訪日観光客に日本の本物の味を体験してもらい、その価値を帰国後の消費行動に繋げる取り組みを展開しています。特に、アニメや漫画といったコンテンツ産業とのコラボレーションが注目されています。例えば、アニメに登場する料理を実際の商品として販売するプロジェクトや、アニメの舞台となった地域の特産品を観光資源として活用する取り組みが進められています。このようなコラボレーションは、日本の食文化を若年層の海外市場に浸透させる効果的な手段です。政府目標と輸出拡大への道筋日本政府は現在約1.45兆円規模の農林水産物輸出を、5兆円規模に引き上げることを目指しています。この目標達成には、観光と輸出を結びつけるループバウンド戦略が鍵を握っています。訪日観光を活用したマーケティング活動や、地域特産品の輸出強化が重要な柱となります。ループバウンド推進の課題人材育成の必要性ループバウンドをさらに推進するためには、国際的な視点を持ち、食文化を効果的に発信できる人材の育成が不可欠です。例えば、バイリンガルでありながら食文化に精通し、現地市場のニーズに対応できる人材は、今後の戦略を支える大きな力となります。地方自治体と企業の連携強化地方特産品を活かしたプロモーションには、地方自治体と企業が一体となって取り組む必要があります。地域ごとの特性を活かしながら、観光資源と輸出を連携させる取り組みが求められています。未来への展望ループバウンドは、日本の食文化を世界に発信し、地方経済の活性化と持続可能な成長を同時に実現する可能性を秘めています。訪日観光を起点に、地方の魅力が世界市場で認知され、双方向の価値循環が深化していく未来が期待されています。政府、企業、地方自治体が一丸となってこの戦略を推進することで、ループバウンドは日本経済の新たな成長モデルとして確立されるでしょう。 インバウンド観光と日本食文化を基盤としたループバウンド戦略は、経済だけでなく、日本の文化や価値観を世界に広める手段としても大きな可能性を持っています。持続可能な成長を目指し、地方から世界へと価値を繋ぐこの取り組みが、日本の未来を形作る重要な鍵となるでしょう。JFOODO、そして執行役の北川浩伸氏の益々の活躍を期待したいと思います。