人口減少や市場縮小といった日本特有の課題に立ち向かうにあたり、今「ループバウンド」という新たな発想が必要となってきています。この概念は、インバウンド(訪日観光)とアウトバウンド(海外進出)の相互作用を活かし、持続可能な新しい経済の構築を目指すものです。ループバウンドを実現するための具体的な視点や取り組みについて、成功事例や実践的なアプローチをループバウンド編集長である中村氏へのインタビューをもとに解説します。ループバウンド推進の出発点――ループバウンドを始めるにあたり、最初に考えるべきことは何でしょうか?中村氏:一番重要なのは「豊かさマインドAbundance Mentality」を持つことです。これは、世界的ベストセラー『7つの習慣』において。スティーブン・R・コヴィーが提唱した発想法です。豊かさマインドとは、リソース(有形無形の全ての資源)は無限である。奪い合うのではなく、与え合い、力と知恵を出し合えば、全ての課題は解決でき、全てのものが豊かになれるという考え方です。別の表現をするならば、プラスサムゲームです。私もゲームの競争相手も双方とも➕➕となりうるゲームです。総和は常に増えていくという考え方。他者の成功を心から肯定できる考え方。ちなみにこれと真逆の考え方は、「欠乏マインド Scarcity Mentality」です。リソースは有限である。たとえていえば、コップの水が足りない。どこかから奪って来ないとならないという考え方です。これも別の表現をするならば、ゼロサムゲームです。誰かが➕1点取ると、誰かがマイナス1点になり、総和は常にゼロという思考法です。この思考法が嫉妬と妬みの源泉となります。これら二つの考え方をループバウンドの概念に当てはめて表すと、「日本の人口が減っていく。需要が足りない。だからインバウンドの外国人に訪日してもらい、自分たちの商品やサービスを買って、ただただお金をいっぱい落として欲しい。」このような従来のインバウンド一辺倒の事業では、実は欠乏マインドの考え方に陥りかねないものです。これが、ループバウンドの考え方では、違ってきます。インバウンドとアウトバウンドの循環により、日本も外国の人々も相互に豊かになれる事業をつくる豊かさマインドのパラダイムに移行できるのです。たとえば、前回ご紹介した名古屋の味噌煮込みうどん店「大久手山本屋」の青木裕辞典さんは、「インバウンドのお客様だけでなく、私たちのお店の味をまだ日本に来たことのない海外のすべての人々に届け、分かち合いたい」という強い想いを持っていました。その想いがあったからこそ、インバウンド対応に留まらず、アウトバウンドへの挑戦を実行できたのです。もう一つは「健全な危機感」を持つことです。例えば、多くの自治体や観光事業者がインバウンドだけに過度に依存している現状がありますが、これは危うい状態です。たとえば今回のコロナ禍では、インバウンドの渡航者がほぼゼロ近くまで落ち込み、観光産業が壊滅的な打撃を受けました。インバウンドだけの一方向的な取り組みだけでは、次の危機に耐えられません。海外出店できている店では、顧客が日本に来れなくなったとしてもその分現地のお店の需要が高まり繁盛したのです。そして日本からの食材やお酒などの海外輸出が伸びたのです。インバウンドとアウトバウンドを連動させるループバウンドの視点が、持続可能な成長には欠かせません。たとえ今はインバウンド需要が伸びていたとしても、近未来の不測の事態への備えが必要です。健全な危機意識をもって、未来に備える必要があります。世界基準での取り組みの重要性――ループバウンドを進めるために、特に注意すべき点は何でしょうか?中村氏:「世界基準」に立つことが何より大事ですね。例えば、食文化やジェンダー(LGBTQ+)の多様性を尊重することが求められます。日本の飲食店では、一部の例外を除けばヴィーガンやハラル対応がまだ十分ではありませんが、こうした対応がなければ海外市場で戦うのは難しいです。大久手山本屋さん(以下、各社敬称略)が行ったように、ヴィーガンやムスリムのニーズに応えるメニュー開発は非常に重要な取り組みです。また、LGBTQ+などのジェンダーダイバーシティに対する認識も不可欠です。世界的に見ると、日本は多様性に対する理解が遅れています。このままでは、グローバル市場での競争力が損なわれる危険性があります。企業としても、こうした視点を持つことがますます求められるでしょう。実践的なステップ――具体的にはどのようなステップから始めれば良いでしょうか?中村氏:まず、国内の先進的な事例を学ぶことが手軽な第一歩です。例えば、東京や大阪、京都・名古屋などの都市部には、インバウンド対応が進んだ店舗やサービスが多数存在しています。「CoCo壱番屋」や「QBハウス」など、ヴィーガン対応やグローバルな視点に立ったサービスを提供している代表例ですね。こうした店舗を実際に訪れ、現場の工夫をウォッチして学ぶことが重要だと思います。次のステップとして、海外市場を視察することをおすすめします。特に、東アジアや東南アジアの市場は、みなさんの明日のインバウンド・アウトバウンド戦略策定に直結可能です。現地の消費者ニーズや競争環境を肌で感じることで、自社の戦略をより具体的に練ることができます。また、世界的に有名な経営学者のピーター・ドラッガーが提唱した、「鳥の目」と「虫の目」と「魚の目」で立体的に現実を洞察し判断してくことが重要です。「鳥の目」、「虫の目」、「魚の目」は、事象を異なる視点で捉える「視点の三原則」を指し、次のような意味があります。鳥の目:高い位置から俯瞰的に全体を見渡す目、虫の目:身近な先進事例を学び、さまざまな角度から物事をみる目、魚の目:潮の流れ(時間の流れ)や干潮満潮(市場の変化)という「流れ」を見失わない目、まさに経営においては、これら3つの視点を持って国内外の流れや自社を取り巻く環境変化を読み取り、経営の舵を取ることが必要です。先進事例から学ぶ教訓――前回事例として紹介してもらった大久手山本屋さんやQBハウスさんの事例から得られる教訓は何でしょうか?中村氏:大久手山本屋のケースでは、食文化の多様性に対応し、顧客のニーズをしっかりと捉える柔軟性が成功の鍵でした。特に、ムスリムの留学生を招いた試食会での厨房の従業員の意識改革や、アウトバウンドにおいては現地市場に合った新メニューの開発は、多くの企業が参考にすべき点です。QBハウスでは、人材の双方向交流が企業の競争力を高める要因となりました。日本のスタイリストが海外店舗で技術指導を行い、逆に海外のスタイリストが日本で研修を受ける。このような仕組みが、離職率の低下や顧客満足度の向上に寄与しました。このモデルは、他の業界にも応用可能だと思います。未来への展望――ループバウンドが日本企業に与える影響について、どうお考えですか?中村氏:ループバウンドは、今後国内市場が縮小する日本にとって非常に重要な成長モデルになると思います。特に、先進事例が増えることで、他の企業も追随しやすくなり、日本全体の競争力向上に繋がるでしょう。また、インバウンドとアウトバウンドの双方向性を活用することで、地域や企業の持続可能性を高める効果も期待されます。さらに、このモデルは単なる経済的な戦略に留まらず、社会的価値を創出する手段にもなります。ジェンダーダイバーシティや食文化の多様性に対応することで、企業はグローバル市場でのプレゼンスを高めるだけでなく、社会全体に貢献できるのです。未来への道筋を探る中村氏:ループバウンドの推進は、日本の企業や地域にとって、新たな未来を切り開く大きな一歩です。そのためには、豊かさマインドと健全な危機感を持ち、世界基準での対応を進めることが不可欠です。大久手山本屋やQBハウスの事例を参考にしつつ、まずは両社以外にも様々な国内での先進事例を調べ、観察し、自らの取り組みへと応用し、具体化していくことをおすすめします。こインバウンドとアウトバウンドの双方向の価値と経済の循環が、必ずや日本の持続可能な成長を実現する鍵になるでしょう。