2024年12月に開催された「JiF観光立国フォーラム2024」では、JAMS.TV PTY LTD社長の遠藤烈士(えんどう・つよし)氏が登壇し、日豪の双方向の文化交流を通じた「ループバウンド」の可能性について講演を行いました。遠藤氏は、日豪を結ぶメディア事業を通じて、日本の食文化や観光の魅力を発信し、さらに日本酒を中心とした食のループバウンドを推進しています。本記事では、遠藤氏の取り組みを振り返りながら、日豪の関係がもたらす新たなビジネスの可能性について掘り下げます。日豪の関係性とループバウンドの実践(1) 遠藤氏のバックグラウンドとJAMS.TVの取り組み遠藤烈士氏は、福岡出身。オーストラリアへ留学し、以来30年以上にわたりオーストラリアに根を下ろし、日本とオーストラリアを結ぶ情報発信を続けています。同氏が代表を務めるJAMS.TV社は2005年に創業され、日本文化をオーストラリア市場に紹介し、日豪の双方向の交流を促進することをミッションとしています。同社のこの双方向の経済・文化交流活動こそ、まさにループバウンドのコンセプトに合致しているといえるでしょう。JAMS.TV社の活動は多岐にわたり、同社は次の三本の柱を軸に事業を展開しています。オーストラリアからの訪日観光促進日本の食文化、特に日本酒の普及と販売支援現地在住日本人向けの情報発信これらを通じて、日豪の結びつきを強化し、観光・食・文化のループバウンドを実現しているのです。(2) 日本食・日本酒のループバウンドモデルオーストラリアでは、ここ数年で日本酒や和食の人気が急上昇しています。訪日経験のあるオーストラリア人が帰国後に日本食や日本酒を求めるようになり、それが現地市場を拡大させる原動力となっています。特に、オーストラリア市場では、日本酒が急成長を遂げており、その背景には以下のような要因があります。健康志向の高まり → ワインやビールに比べ、日本酒は添加物が少なく「ナチュラルなアルコール」として受け入れられている食文化の多様化 → 和食がオーストラリアのライフスタイルに浸透し、食中酒としての日本酒の需要が増加訪日経験者の増加 → 日本で本物の日本酒を味わい、その魅力を知った消費者が帰国後に日本酒を求めているこのように、訪日体験がその後の消費行動に影響を与え、日本の食文化が海外で広がる構造が、まさにループバウンドの形を取っています。SIT(Special Interest Tour)と訪日観光の進化(1) SITとは?JAMS.TV社では、観光分野において、とりわけ「SIT(Special Interest Tour)」にフォーカスした取り組みがなされています。SITとは、特定の趣味や関心に特化した旅行形態のことで、一般的な観光よりも、より深い体験が提供される点が特徴です。例えば、日本酒をテーマにした訪日ツアー特定の地域の食文化を学ぶ旅日本の伝統文化や職人技を体験する旅など、一般的な観光旅行とは異なり、訪問者がより深い文化的体験を得られるプログラムが求められているのです。(2) 日本酒と食文化を軸にしたSITの可能性JAMS.TV社は、オーストラリア市場における日本酒の普及を目的としたイベント「オーストラリア酒フェスティバル」を開催し、これをSIT型の訪日観光と結びつける試みを進めています。このフェスティバルでは、訪日経験者の74%が参加年齢層が幅広く、リピーターが多いシドニーとメルボルンで毎年開催、2024年は約1万3000人が来場という規模にまで成長しています。日本酒フェスティバルが単なる酒イベントではなく、日本食文化や観光誘致と直結している点が特に注目されています。オーストラリア市場における日本文化の拡大(1) 日本酒の市場拡大戦略JAMS.TV社では、日本酒の単なる認知拡大だけでなく、実際の消費行動につなげるための施策として、日本酒×和食ペアリングの普及豪州現地飲食店とのコラボレーションオンライン販売・ECサイトの強化に取り組んでいます。そして、これにより、日本酒を軸にしたループバウンドが加速しているのです。(2) 在豪日本人コミュニティとの連携オーストラリアには多くの日本人が居住しており、彼らの需要を取り込むことで日本食市場をさらに拡大することが可能となっています。JAMS.TV社では、在豪日本人向けの情報発信を通じても、日本の食品や飲料の普及を促進しています。ループバウンドの未来と展望(1) 日豪の関係深化JAMS.TV社の取り組みは、日豪の経済・文化交流をさらに深化させるものです。日本食文化、日本酒、観光を一体化させ、双方向の流れを作ることで、ループバウンドが持続可能な成長モデルとなることが期待されます。(2) 今後の課題と展開なお、今後のJAMS.TV社の取り組むべき課題として、遠藤氏は、豪州におけるより多様な日本食・飲料の市場開拓訪日観光プログラムの充実現地企業や日本の各地の自治体との連携強化などを挙げています。これらをクリアすることで、きっと日本とオーストラリアのループバウンドはさらに加速化していくことでしょう。上記で紹介したJAMS.TV社の取り組みは、食・観光・文化を融合させたループバウンドの好例と言えます。訪日体験をきっかけに、日本食・日本酒の消費が豪州の現地で拡大し、さらにそれが次の訪日観光へのモチベーションとなる。この双方向の流れ・好循環が、日本の地方経済や観光産業を支える新たなモデルとして機能することが期待されます。オーストラリア市場を中心に、日本文化が世界へと広がるループバウンドの未来に、さらなる注目が集まっています。JAMS.TV社の、そして遠藤烈士氏の更なる活躍が期待されています。