2024年12月に開催された「JiF観光立国フォーラム2024」では、(株)ジェイエムインテグラル 海外事業統括の藤崎拓深(ふじさき・たくみ)氏が登壇し、日本の医療産業の国際展開について講演を行いました。講演では、これまでのアウトバウンド中心の戦略から、インバウンドと組み合わせた「ループバウンド」型の医療事業モデルにシフトする必要性が語られました。本記事では、藤崎氏の講演内容を、JiF理事長中村氏による解説を交えながら、日本の医療がどのようにASEAN市場、特にベトナムと結びつき、新たな成長機会を生み出しているのかを探ります。日本の医療を世界へ、ループバウンドの視点日本は、世界一の健康寿命を誇る「健康大国」として知られています。また、日本の医療産業は、高度な医療技術、精密な診断機器、充実した予防医療など、世界的に高い評価を受けています。しかし、国内市場の縮小と人口減少に伴い、日本の医療機関やヘルスケア関連企業は、新たな成長の道を模索し始めています。その中で注目されているのが、インバウンドとアウトバウンドを相互に連携させる「ループバウンド」戦略です。従来のアウトバウンド(海外進出)一辺倒ではなく、訪日医療ツーリズム(インバウンド)と連動させることで、持続可能な国際医療ネットワークを築くことが可能となりつつあるのです。藤崎氏はこの日、「日本の外貨を稼ぐことだけでなく、ASEAN諸国と日本の医療技術・サービスが相互に影響し合い、発展していくことが重要」と述べ、単なる輸出モデルではない、新しい医療産業の成長戦略を提唱しました。なぜベトナムなのか? ASEAN市場の可能性藤崎氏は、東南アジアの中でも特にベトナム市場にフォーカスしています。その背景には、いくつかの重要な要因があります。(1)日本とベトナムの強い医療連携ベトナムの主要病院の一部は、日本のODA(政府開発援助)によって建設されました。例えば、バクマイ病院やフエ中央病院、チョーライ病院といった大病院は、日本の技術協力と資金援助のもとで設立され、発展してきました。そのため、ベトナムの医療機関や政府関係者の間では、日本の医療技術に対する信頼が厚く、日本の医療サービスを受け入れる土壌が整っているのです。(2) 高まる医療支出と急速な高齢化ベトナムはまだ若い国ですが、今後急速に高齢化が進むと予測されています。例えば、日本では65歳以上の人口が7%から14%に増加するのに24年かかりましたが、ベトナムではこれがわずか15年で到達してしまう見込みです。このような急速な高齢化の状況が、医療・ヘルスケア市場の成長を加速させることになります。さらに、ベトナム国民の健康増進に対する支出割合は、ASEAN諸国の中でも非常に高く、収入の11.1%を健康関連に費やしているというデータもあります。これは先進国であるシンガポールの4.6%をも大きく上回る割合であり、ベトナムにおける医療市場の成長の可能性を示しています。日本の医療サービスがベトナムで果たす役割ベトナムでは、急速な経済成長により中間層・富裕層が拡大していますが、高品質な医療サービスは依然として不足しています。例えば、一部の病院では診察を受けるために長時間待つ必要があり、患者は待合室のスペースが足りず、建物の外で順番を待つ状況も珍しくありません。また、電子カルテの導入も遅れており、紙カルテが山積みになっている病院も多いのが現状です。こうした環境の中で、日本の高品質な医療サービスが果たす役割は非常に大きいと言えます。藤崎氏は、現地の医療機関と連携し、以下のような具体的なプロジェクトを進めていると述べました。日本式の医療拠点の設立支援日系医療機器メーカーの海外進出支援遺伝子検査サービスの普及促進ベトナムでの医療セミナー開催や法令調査の実施訪日医療ツーリズムの可能性藤崎氏は、これまで日本からのアウトバウンド戦略を中心に事業を進めてきましたが、現在は「訪日医療ツーリズム」への支援にも力を入れています。ベトナムの富裕層や高度な医療サービスを求める患者が、日本で健康診断や治療を受けるためのサポートを行っています。従来、日本の訪日医療ツーリズムは健診に特化していましたが、今後はより高度な治療や術後のフォローアップまでを視野に入れた包括的なサービスへと進化する必要があります。そのためには、以下のような課題を解決する必要があります。医療通訳や長期滞在のサポート体制の強化日本の病院とベトナムの医療機関の継続的な連携医療相談・カウンセリングの提供こうした取り組みを通じて、アウトバウンド(海外展開)とインバウンド(訪日医療)の両軸を持つ「ループバウンド型の医療ネットワーク」を構築することが求められていするのです。未来への展望:医療のループバウンド化がもたらす変革藤崎氏の取り組みは、単なる日本の医療技術の輸出にとどまらず、現地の医療水準の向上や医療交流の促進にも貢献しています。医療分野におけるループバウンドの実現は、日本の医療産業の成長だけでなく、持続可能な国際医療ネットワークの構築という新たなステージへと進化する鍵となるでしょう。ジェイエムインテグラル社の、そして藤崎拓深氏の益々の活躍に期待したいと思います。